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ップアップのために蓄積されるべき自己資本(利益=内部留保)が、経常的な資金需要にいわば流用されることになり、自己資本の充実は実現できない。この事態を回避するためには、ここ数年続いている右肩上がり売上拡大のプロセスを一旦見直し、増加運転資金の追加的な発生を意図的にくい止めることが必要である。これが、企業体質転換点としての『成長のための踊り場』をつくることの本質的な狙いとなる。
今後の業界動向を予測した場合、厳しい環境変化が生じうる可能性が高いことは本報告書においてこれまで述べてきたとおりである。もし、この先も自己資本が薄いとした場合、慢性的な体質としての不況抵抗力の弱さという経営リスクを抱えることになる。また、将来的に新たな成長のための設備投資が必要となった場合においても、自己資金が手当不可能であり、外部資金(借入)調達による有利子負債の増大と、その結果生じる利払い負担により財務内容が悪化することが予測される。
従って、自己資本の蓄積を図ることを主とする財務体質の強化により、厳しい環境変化にも耐え得る状態にしておくことが、経営の舵取りにとって最も重要な意思決定である。単年度の売上を獲得することも当然重要であるが、業容の拡大以上に、財務基盤の質的な強化が求められる時期が到来していると考えられる。A社としては、売上拡大という業容拡大戦略を意図的に一旦停止し、あえて企業体質転換点である『成長のための踊り場』を設け、ワンランク上の企業体質を目指し、質的変革を遂げていくことが求められる。
?A増加運転資金の手当等、ファイナンス能力の強化
上記提言と絡み、業容の急拡大を遂げてきたA社にとって、台頭してきている不可避的課題としては、売上拡大に伴う増加運転資金の発生があげられる。A社における増加運転資金の発生原因としては、売上の増加や生産高の増加に伴う前向きな要因に基づくものであり、その発生は財務的見地から当然のものであるか、現時点における重大な成長阻害要因となっている。
また、作業船建造受注取引においては、建造工事代金の回収は、手形または現金による納品時一括回収が中心となっている。従って、この間の資金手当のために現状A社では、取引(作業船の受発注)に商社を介在させ、商社からの立て替え払いによる資金調達を行っている。これより、商社立て替え払いにかかる手数料(金利)が金融機関からのファイナンスよりも割高になっており、余計なコスト負担を強いられており、ひいては利幅の減少による利益率の低下要因となっている。
こうした状況を勘案する場合、A社にとっては今後金融機関からの安定的な資金調達ルートを確保するための検討が必要である。例えば、金融機関にクレジットライン(反復的に利用できる借入の限度枠)を設定し、手形借入や当座借越を機動的に実行できる仕組みをもつことにより、商社立替レートよりも割安な短期資金の手当を行うことなどが、有効な方策として考えられるであろう。
今後のファイナンス力を強化するに当たり、A社としては、作業船発注及び建造等の一連の取引慣行を取引関係者に十分説明し、理解を得るための努力を行うことが求められる。その上で、取引金融機関も含めた取引先との関係強化と良好な信用関係づくりを図り、業界固有の商慣行並びにA社固有の財務体質に適した、ファイナンスの方策立案が求められる。

 

 

 

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